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コラム

【弁理士加藤先生の知的財産のすゝめ】ブランド価値を高めるために、知的財産を守ろう。

「知的財産」というと皆様はどのようなイメージをお持ちでしょうか。形がないことで、その価値を捉えることを難しく感じられることもあるかと思います。
今回は「知的財産」による価値向上について、弁理士の加藤道幸先生よりコラムをご寄稿いただきました。


目に見えない知的財産にこそ、大きな価値がある!

生成AIが話題になる中、知的財産に関するニュースに事欠かない。
主には、ネット上に散らばる写真や各種文章等の他人の著作物をAIが学習し、生成AIが、疑似した著作物やブランド・ロゴマークを作りだしたり、特定のブランドに対する偽情報を作り上げてしまったりした話である。
特定のブランドの偽情報が流布されれば、そのブランド企業の信用に傷が付くであろうことは、容易に想像できる。一般に、絵画や音楽等の著作物が、知的財産であることはイメージしやすい。他方、企業のロゴマークやブランド名が、知的財産であることはイメージされにくい。
しかし、企業のロゴマークもブランド名も、れっきとした知的財産であり、目に見えない財産(無形財産)なのである。
「ブランド価値」という言葉を耳にすると思うが、まさに、この言葉の意味するところは、「ブランド」に極めて高い財産的な価値がある場合が多いことを示している。
ただし、目に見えない財産は魔物(多くの場合には、粗悪な偽モノ)によって、いとも簡単に、その価値が破壊されてしまう。

知的財産保護の事例-「うなぎいもⓇ」のビジネスモデル

一例として、仕事や観光で訪れた駅で、お土産に箱菓子を購入する際のことをイメージしていただきたい。駅の売店には、多くのお土産品(箱菓子)が販売されている。さて、みなさんは、どの箱菓子を選ぶだろうか?

「うなぎ」+「さつまいも」=「うなぎいもⓇ」のブランド力

「浜名湖」(静岡県浜松市及び湖西市)は、鰻の産地としては、全国的に有名である。その一方で、さつまいもの産地でもあるが、さつまいもの方は産地としてあまり知られていない。
ある企業が造園業の片手間に農業を始めようと考えたときに、暑さや寒さに強く育てやすいことからさつまいもを選び、事業を開始したものの 、有力な産地が多いこともあり、ブランドでも価格でもかなわなかった。
そんな中、ブランド力が極めて高い「浜名湖うなぎ」がある浜松人だからそこ、すぐに「うなぎ」のキーワードに気がついたのだ。
魚の残査由来の肥料はすでに世の中にあるが、うなぎを使ったものは存在しない中、浜松では、うなぎ専門店やうなぎの加工業者が多く、日常的に大量の残査が廃棄される。このうなぎの残渣を肥料にして育てたさつまいもとして「うなぎいもⓇ」を世に出したわけである。
うなぎの残渣の処分は費用がかかるが、この企業は無料で残渣を回収し、さつまいもを育てるための堆肥として提供したというストーリー性を有していることも、忘れてはいけない。
そしてさらに、他のさつまいも産地に負けない競争力を得るために、市場規模が大きく、より付加価値の高い加工食品(最初にヒットしたのがプリン)として、世に出したわけである。

◆「浜松市のお菓子の『うなぎいも®』プリンが、テレビやネットで話題だったな!」
https://unagiimoya.com/?pid=168857702
◆「以前に浜松市のお土産でもらったお菓子の『うなぎいも®』が美味しかったから、自分も買って帰ろう!」
◆「同僚から、浜松に行ったら『うなぎいも®』のタルトを買ってきてくれないか、と言われたので」
https://unagiimoya.com/?pid=169725455

「ブランド」を絶えず意識した結果として、商標登録を目指したことは必然

「うなぎいも®」を生み出した企業が、まず心配したのは、すぐに出てくる偽モノのことだ。
「以前に浜松市のお土産でもらったお菓子の『うなぎいもⓇ』が美味しかったから、自分も買って帰ろう!」ということは、日常的にある話だが、他方で、その商品が売れはじめると途端に偽モノが登場する。
「他人に名声にタダ乗りして儲けてやる!」、そんな輩が出てくるのだ。
それは、商品名に限らず、キャラクター(マスコット)も例外ではない。「うなぎいも®プロジェクト」にも、「うなも」というキャラクターがあり、商品パッケージに描かれている。
名称やキャラクターを模した偽モノが出てきたとき、その偽モノ商品の品質は劣悪なケースが極めて多い。品質が悪い(お菓子でいうと、本物に比べて美味しくない)偽モノが市場に出回ったら、どうなるのかは明白だ。

偽モノを速やかに排除するための商標権

この企業は、商品やサービス名を法的に保護する制度として、商標登録制度があることを知っていたこともあり、まずは商標登録しなければと、権利化に動いた。
そのため「うなぎいも®プロジェクト」は、プロジェクト発足当初から知的財産権の一種類である商標権の取得に取り組み、「うなぎいもⓇ」「うなも(うなぎいも®のキャラクター)の図柄」の商標権を取得している。
商標権は、一般的なイメージでも明らかなように、同一又は類似の標章を、同一又は類似の商品やサービスに用いた他者を、強制的に排除するための権利である。

とはいえ、「うなぎいも®プロジェクト」では、単に偽モノを排除するためだけに商標権を取得したわけではない。
商標権には、以下のような目的や効果があり、「うなぎいも®プロジェクト」は商標権を積極的に活用している。

商標権の取得の目的や効果とは?

①ブランドを介して事業者の顔が見える(自他商品等識別機能
静岡県浜松市には、「うなぎ」を冠した有名なお土産菓子が存在する。
そんな環境の中、「うなぎ」を商品名に含むお菓子が世に出ると、いろいろな誤解を生んでしまうことは明らかである。それだけ、既存のお土産菓子のブランド力は絶大なのだ。
そうなると、差別化のための明確かつ法的な守り(証明)が必要になってくる。お客様が、商品を取り違えることを抑える効果が、商標にはある。

②商品やサービスの顔(出所表示機能)
ブランド名(登録商標)は共同事業やフランチャイズ事業には必須のアイテムである。
「うなぎいも®プロジェクト」は、多くの事業者が、それぞれの強みを生かした事業を行っている。このような共同事業においては、お互いを繋ぐ御旗(シンボル)が必要で、ビジネスの思念を明確に示し、商品やサービスの出所を明確にするためにも、商標権は重要である。

③広告宣伝の武器(宣伝広告機能)
「うなぎいもⓇ」には、商品・サービスを広告・宣伝する機能を有している。
商品を購入した人は、シンボルとしての商標「うなぎいもⓇ」を通じて、その商品の素晴らしさを記憶にとどめ、「うなぎいもⓇ」を他の人に伝える(今の時代も口コミが絶大な力を持っている)。また、未だ商品を購入していない人でも、テレビCMやインターネット上での情報に触れることで、シンボルとしての商標を通じて、その商品から良い印象を受けることがある。
「うなぎいもⓇ」の場合は、TVや新聞やインターネット上で大きく取り上げられ、その結果として、「うなぎいもⓇ」という商標が商品の素晴らしさを印象づけるシンボルとしての役割を果たした。
さらに、未だ商品を購入していない人は、インターネット等の広告で、インパクトのあるネーミングの商標を通じ、その商品から良い印象を受けることもある。「うなぎいもⓇ」の印象が商品の広告・宣伝の武器になることを期待して、商標権を得たわけである。

④「ブランド管理」=「品質管理」→質の証!(品質保証機能)
消費者は、「うなぎいもⓇ」と名が付く商品は一定以上の品質だと信じて商品を手に取る。つまり、「うなぎいもⓇ」がブランドである以上、「うなぎいもⓇ」を冠した商品の質に大きなばらつきがあっては、消費者の期待を裏切りかねない。メーカーやお菓子の種類が違えども、「うなぎいもⓇ」がパッケージに刻まれている以上、一定水準以上の質が求められるのである。
「うなぎいも®プロジェクト」のメンバーからすれば、「うなぎいもⓇ」を冠する以上、恥ずかしい商品は市場に出せない!という、責任を負っている。つまり、商標権は、その商標を使用する者の責任を自覚させると共に、その商品やサービスの質を保証する目印になる。同時に商標は、同じ商標が使用された商品は同じ品質であることを、消費者や取引者に対して保証することになる。

「うなぎいも®」の商標が築き上げた、ブランド価値

「うなぎいもⓇ」の例のとおり、ブランドとその管理は、非常に重要である。
今の時代、ブランドとしての価値や、ブランドの生い立ちにストーリー性を有さない商品は、消費者の気を引かないし、商品として信用してもらえない。
一方で、ブランドの信用は、一朝一夕には形成されないことも事実である。
この企業の場合も、当初はノーブランドでのスタートで、ノーブランドのさつまいもは、あまり売れなかった。失敗も経験する中で育て上げた「うなぎいもⓇ」を、大切に守り、そして、更に育てていく手段として、「知的財産の保護・管理」(例えば商標権)が、いかに重要かをお分かりいただけるだろう。
ぜひとも、知的財産の積極的な保護を介して、自社の努力の結晶である経営資産を、さらに育てていただきたい。

【筆者】
加藤特許商標事務所 弁理士、行政書士
加藤 道幸(かとう みちゆき)先生
スタートアップ企業にエンジニアとして就職。その後、大手家電メーカーで携帯電話の開発・商品化に従事。特許事務所で知的財産権関連の業務支援を行いつつ、弁理士試験に合格して独立。行政書士として許認可、補助金、事業承継の業務を行い、日本行政書士会連合会の専門員でもある。

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